聖座・典礼秘跡省から御返信が届きました。 クリック/タップ

舌による拝領の方が、コロナウイルス感染リスクが高いとの主張に明確な科学的根拠なし

Corpus Christi

2020年6月8日に、国際Una Voce連盟(Foederatio Internationalis Una Voce (FIUV))が「舌による聖体拝領と伝染病」に関するプレスリリースを公式サイトにて発表しました。

  Communion on the Tongue and Epidemic: Press Release

アラバマ州モービル大司教区のThomas J. Rodi大司教様が出した司祭宛ての声明や、新型コロナウイルスの流行に関連した世界中での聖体拝領を取り巻く問題についての所見とのことです。(聖体拝領等に関するRodi大司教様による悪しき声明について知りたい方は、上記プレスリリースのPDF版に掲載されているリンクをご参照願います。)

プレスリリースの1番と6番が特に注目に値します。1番では、2009年の豚インフルエンザ流行時に典礼秘跡省より出された書簡も提示しつつ、「信徒には舌での聖体拝領の権利がある」ことを断言しています。6番では、感染症の専門家等による見解を踏まえつつ、「『手による拝領よりも、舌での拝領の方がコロナウイルスを感染させる可能性が高い』という主張に明確な科学的根拠はない」と述べています。

日本の信者としても大いに参考にさせていただきたい内容につき、以下に拙訳(一部意訳)と関連情報について以下掲載します。(Una Voceの関係者ではないので、おこがましくはありますが・・・。)


FIUVプレスリリース:舌による聖体拝領の権利等について

  1. 通常形式においては、教会の普遍的な法は、すべてのカトリック信徒に対して舌で拝領する権利を与えています。2009年のいわゆる「豚インフルエンザ」の流行時にも、公衆衛生上の懸念に関して、当該権利について典礼秘跡省によって再確認されました。

    【参照】
    ・『あがないの秘跡』(Redemptionis Sacramentum) (2004年)第92項
    ・典礼秘跡省次長アントニー・ウォード神父様からの手紙(2009年7月24日付、Prot. N. 655/09/L)(※後述

  2. 特別形式においては、教会の普遍的な法は、舌のみで御聖体を拝領することを認めています。

    【参照】
    ・『ウニベルセ・エクレジエ』(Universae Ecclesiae) (2011年) 第28項
    ・『メモリアーレ・ドミニ』(Memoriale Domini)(1969年)

  3. いずれの場合も、教会の法は裁治権者によって取り消されることはありません。

  4. 略(御聖体拝領のときのソーシャルディスタンスについて)

  5. 略(司教が司祭に課す罰則は教会法にて制限されている件)

  6. 手による拝領よりも、舌での拝領の方がコロナウイルスを感染させる可能性が高いという主張に明確な科学的根拠がないことが、ますます明らかになってきています。これは、米国オレゴン州ポートランドのSample大司教やペルーはピウラのJosé Antonio Eguren大司教に対する専門家の進言と、米国ワシントンDCのThomistic Instituteによるガイドラインに関与している専門家の見解です。もし世界中の司教方が、高まりつつあるこのコンセンサスに反する研究論文や専門家の見解を所持しているのであれば、緊急の案件として公表する義務があります。

  7. 地域の事情により、聖体拝領や公開ミサ、さらには私的な祈りのために教会を開放することの中止までもが、司教方や公的機関によって命じられてきました。これらの措置は少なくとも公明正大であり、真の公衆衛生上の懸念によって正当化される限り、信徒の権利を侵害するものではありません。これらの措置が世界中で徐々に解除されつつある中で、司教方が専門家の進言に従い、特定の司祭や信徒を恣意的に選び出して他の人達よりも大きな制限を課すことなく、信徒の権利を尊重して行動し続けることを、私達は強く求めています

※ 文中の強調は当サイト管理人によります。

プレスリリース中の参照事例

プレスリリース文中にて参照されている事例について、以下詳しく見てみます。

2009年豚インフルエンザ流行時の典礼秘跡省からの返信:舌による聖体拝領は『あがないの秘跡』通りの適用


まず、プレスリリースの1番にて言及されている豚インフルエンザ(新型インフルエンザ(H1N1))流行時に典礼秘跡省次長アントニー・ウォード神父様から出された2009年7月24日付書簡の内容について確認していきます。この書簡は、当時英国の信徒から寄せられた「舌による聖体拝領の権利」の問い合わせに対する御返信とのことです。

御返信の文中では『あがないの秘跡』の以下の内容を再提示しています。

 「おのおのの信者は聖体を舌で受ける権利をつねに持っている」(第92項)
 「法律上聖体拝領を禁じられていない信者に対して拝領を拒むことは適法ではない」(参照第91項)

言うまでもなく、豚インフルエンザを引き起こすウイルスの感染経路も新型コロナウイルスと同様に「接触感染」と「飛沫感染」です参考・厚生労働省発行資料。それでも、典礼秘跡省は舌による聖体拝領を禁じる御判断を下していません。

典礼秘跡省次長アントニー・ウォード神父様からの書簡(2009年7月24日付)

・書簡についての参考記事
It is not licit to deny communion on the tongue due to H1N1 (RORATE CÆLI)
Communion and Coronavirus: Pertinent Law for the Ordinary Form [UPDATED] (New Liturgical Movement)

米国オレゴン州ポートランド大司教区:「手と舌での拝領とでは同等の感染リスク」

Alexander King Sample大司教様 (出典

プレスリリースの6番にて言及されている米国オレゴン州ポートランド大司教区のAlexander King Sample大司教様による文書(2020年3月2日付)では、二人の医師に相談(うち一人はオレゴン州の免疫学の専門家)した結果を踏まえて以下の見解が述べられています。

  • 適切に実施された場合、手と舌での拝領とでは同等の感染リスク
  • 授与者の手が舌に触れて唾液を他の人に移す危険性は明らかにあるものの、拝領者の手に触れる可能性も同程度に高く、手は細菌(原文germs通りに翻訳)にさらされる可能性が高い

小教区、通常の聖体奉仕者(司教、司祭、助祭)、臨時の聖体奉仕者が舌による聖体拝領を禁止することはできないと断言している文書です。ここでも、豚インフルエンザ時の典礼秘跡省からの手紙の通り、『あがないの秘跡』の第92項を参照して主張しておられます。

なお、手先が信者の舌に触れる懸念について補足すると、「舌に直接御聖体を授与するときには、舌に触れることはほとんどない。手の上に授与するときは、しばしば、かなりの頻度で、拝領者の指や手のひらとの接触がある」と述べられている神父様もいらっしゃいます。(ズールスドルフ神父様「Fr. Z’s Blog」の記事Communion in the time of Coronavirus. Best Practices, Risk, and You.ご参照)

余談ですが、Sample大司教様は特別形式ミサをお献げになるような御方です。YouTubeに『スンモール・ポンティフクム』(日本語訳)10周年記念の荘厳司教ミサの動画がアップされています。

YouTube動画へのリンク:Solemn Pontifical Mass

ペルー、ピウラ大司教区:御聖体を舌でも拝領できると明言

José Antonio Eguren大司教様(出典

次に、ペルーはピウラ大司教区のJosé Antonio Eguren大司教様による文書(2020年3月7日付)について見てみます。同大司教様も『あがないの秘跡』第92項を参照した上で「御聖体は、信徒が選択した通常の方法で拝領し続けることができます」と述べられています。そして、「口でも手でも接触感染のリスクは同じだと、免疫学の世界的専門家は指摘しています」と言葉を続けられています。

(ちなみに、文書は「大天使聖ミカエル、我らのために祈り給え!」(¡San Miguel Arcángel, ruega por nosotros!)の祈祷文にて締めくくられています。伝統信仰を堅持している大司教様なのだろうと推測されます。)

・参考記事
Coronavirus: Arzobispo permitirá la Comunión en la boca y alienta a no cerrar iglesias(ペルーのカトリック系通信社ACI Prensaのニュースサイト)

米国Thomistic Instituteのガイドライン:舌での拝領は可能

最後に、司教方の要請を受けて米国ワシントンDCのThomistic Instituteが作成したガイドライン(2020年5月7日付)を確認します。これは、感染症の専門家、医療専門家、科学者、カトリック神学者からなるワーキンググループにより作成した「パンデミックの状況下でカトリックの秘蹟をどのように提供するか」についてのガイドラインであり、世界保健機関(WHO)と米国疾病対策センター(CDC)が発表した最新基準に沿っているとのことです。

やはりここでも『あがないの秘跡』の第92項を考慮した上で、舌による聖体拝領について以下の見解を掲載しています。

「判断や感性の違いを認識した上で、ガイドライン中に挙げた追加の注意事項(※)を適用すれば、不当なリスクを冒すことなく舌での拝領が可能であると考えられます。本件については、医学界、科学界では様々な意見があります。」

※ ガイドラインにおいては、舌による拝領者のために別個の拝領場所を設けること、もしくは拝領時間の最後に拝領すること。信徒が舌で拝領する毎に聖体奉仕者が手の消毒剤を使うことが勧められています。(あくまで当該ガイドラインによる提案ですが。)

・参考ページ
COVID-19 & SACRAMENTS(Thomistic Institute公式サイトの特設ページ)

所感

舌による聖体拝領を禁じる指示の問題は日本でも起こっていますが、上掲のプレスリリースや高位聖職者方の声明のような内容を日本の教会では目にすることがありません。今回様々な資料を拝読して、助けられるような思いがしました。そして、『あがないの秘跡』は重要文書だということも再確認できました。

個人的な考えを付け加えれば、新型コロナウイルスが各国に流入してから公開ミサが停止されるまでの期間中に、御聖体を舌で拝領した信徒の事例は少なくとも全世界合計で数千万回(※)はあったはずなのに、拝領方法が原因で接触感染が起こったというニュースが報じられていない件(※※)についても聖職者方にご考慮願いたいということです。

※ 【計算内容】新型コロナウイルスが各国に流入してから公開ミサが停止されるまでの期間中、全世界の12億4千万人のカトリック信徒のうち舌での拝領者は僅か1%と少なく見積もってみます。当該期間中の舌による聖体拝領の事例数は、1,240万人×聖体拝領数(1回以上)=数千万回以上 という計算になります。
(ざっくりとした計算なので公開ミサが中止となっていない国・地域については考慮していません。)

※※ もし舌による聖体拝領で接触感染が起こっていれば、俗世間や教会内の「現代的な」人達がバッシングする絶好の機会につき(「衛生概念のない狂信者のせいでミサで感染者が出た!」というような非難)、一切報道されずに見逃されることはないでしょう。 ミサで感染爆発が起こったというニュース自体も今まで報じられていないように思います。

一方で、手による聖体拝領だと御聖体のかけらが手のひらに付着するという問題があります。

 拝領時の御聖体のかけらに関する実験ズールスドルフ神父様のブログ記事より。

日本語参考記事「黒い手袋を使った手による聖体拝領の実験 Part 2実験」(護教の盾)
ある聖体奉仕者の告白」(みこころネット)

今まで全世界で起こっていないと考えられる接触感染の「リスク」よりも、確実に起こっている御聖体のかけらの「損害」に、日本含む世界中の聖職者方にご着目いただきたいのですが・・・。

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2020年6月11日 キリストの聖体の祝日(Corpus Christi)、使徒聖バルナバ